STORY

納得のいく仕事がしたい。
金沢らしさの継承、
受け継がれるものづくりの心。

金沢尾張町プロジェクト

「その仕事が、
誰かの未来になる。」
スペシャルムービー

INTERVIEW現場取材

納得のいく仕事がしたい。
金沢らしさの継承、
受け継がれるものづくりの心。

伝統と革新の街・金沢に誕生するデスティネーションホテル。

今回のプロジェクトは、急激に開発が進む市街地でのホテル建設。
旅の目的地となるホテルとしていかにお客様に楽しんでいただくか。
そのひとつの答えが、金沢らしい庭園風景を中庭に再現することでした。
デザイナーや設計者の想い、自然の風景を忠実に再現する難しさ。
作業所長として仲間とともに日々奮闘する中邑さん。
それはかつて大工だった、父の職人としての姿にも重なります。

「納得のいく仕事がしたい。」その仕事への情熱と創意工夫が、
金沢らしさの継承と街の新たな賑わいへとつながっていきます。

金沢尾張町作業所
所長中邑 康弘

取材・撮影:2021年6月

金沢で生まれた私が、
故郷の発展と街づくりに
貢献できる喜び。

金沢市尾張町は初代加賀藩主の前田利家公の出身地である、尾張の国から移り住んだ商人の町であり、近江町市場と茶屋街を結ぶ中間地点で商いの町として賑わいました。近隣には、古い金沢町家や蔵などが点在し当時の様子を伺わせるとともに、北陸新幹線の影響により急激にマンションや宿泊施設も増え、まさに伝統と革新の街という言葉が当てはまる地域です。また、建設地は北陸郵政局の建物があった場所で市民にとって馴染みの場所でもあります。「金沢で生まれ育った私が、金沢の中心地でこのようなホテル建設に携われることは非常に光栄。故郷の発展と街づくりに寄与できることを嬉しく思う」と中邑さんは語ります。

古き良き街並みが残る一方で様々な開発が進む金沢。周辺にはビジネスホテルやリゾートホテルも点在するなか、このホテルに泊まりたいと、いかにお客様に選んでいただくか。そして、コンセプトである「旅の目的になるホテル」をどのように実現していくのか。設計者のたどり着いたひとつの答えが、金沢らしさを感じさせる庭園風景をここに再現することでした。

設計者やデザイナーの想いを忠実に再現し、
金沢の風景を継承する。

この街の文化や洗練された街の気風。金沢らしい庭園風景をホテルの中庭に再現する。といっても、描かれた完成予想図どおりのものをつくるのは大変です。イメージに合う植栽を探すために関東一円を回り、長野県へも景石探しのため足を運びました。

中庭の一番奥にある滝は2階の床の高さから1階の床の高さにかけて段々と4m以上の高低差を水が落ちていきます。中庭の木の高さは8m程度を想定していますが、徐々に育っていくのではなく、ホテル完成時にはイメージ通りのものが植わってないといけません。また、完成1年半前に金沢へ運び、北陸の気候に慣らしていくという自然相手の難しさもあります。それでも設計事務所やランドスケープデザイナーの想いを忠実に再現するのが現場の仕事。樹木や岩や滝など、中庭をつくる細部にまでこだわり完成させる。多種多様な専門職の知恵や努力、プロの仕事を積み重ねていくことで金沢の伝統風景がこの場所に受け継がれていきます。

仕事への情熱を支える、
新たな試み。

「我々の仕事の一つは現場を管理すること。」と語る中邑さん。佐藤工業の掲げる建設品質を追求するために取り入れたのがICT技術です。手数の掛かるもの、機械がやってくれることは機械に任せて、その時間を有効利用し次の検討に時間をかける。採用しているBIM(※1)に関しては、施工検討の段階で建物、特に地下工事やスロープの検討、複雑な配筋の納まりなどの問題点をあらかじめ洗い出し、手戻りなくスムーズに現場が進むよう、着工前の段階から検討を重ねています。また、山留変位の計測(※2)に関しても、自動計測技術を活用することで、24時間・人がいなくても測定できるというのは大きなメリットです。

以前であれば、若手社員が朝から晩まで測量機械を担いで測定していましたが、今はその分、別の業務に携わることができその効果も出始めています。これらの技術は最新技術と呼ぶようなものではありません。例えば、山留め変位の計測は土木では当たり前の技術でしたが、建築の世界ではあまり使われてこなかった。そういった技術や工法を見直し、使えない理由を探すのではなく、採用する方法を考えることで実用化や普及が進むのではないか。技術の継承と情熱を支える創意工夫。新たな挑戦がはじまっています。

※1 BIM(Building Information Modeling)とはコンピューター上に作成した3次元の建物モデルに、コストや仕上げ、管理情報などの属性データを追加し建築物のデータベースを作成。設計、施工から維持管理までのあらゆる工程で情報活用を行うためのソリューション。

※2 山留めとは地盤を掘削するときに周辺地盤が崩れないよう設置する構造物(主に壁)のこと。地盤の沈下や移動などの危険な変化がないか事前に把握し速やかに対応するため、山留変位を計測します。

設計図どおりにやるのだけが仕事ではない。
納得のいく仕事をしたい。

作業所長として現場の施工全体を統括管理する中邑さん。その仕事は、品質・原価・工程・安全・環境と多岐に渡りますがお客様の要求品質以上のものを出せるように努めています。また、金沢中心地でのホテル建設ということもあり品質はもちろんのこと、統括安全責任者として公衆災害への取り組みも徹底。現場には「今日の安全、みんなの喜び」というスローガンを掲げています。このスローガンは自身が若い頃に担当していた現場の上司が掲げていた言葉であり、中邑さんへと受け継がれています。現場の責任者になった今、今日1日安全に終わったということが、自分たちだけでなく、作業員やその家族、また発注者など、この仕事に携わるすべてのひとの喜びにつながっていることを知りました。また、入社から30年近く経った今でも、諸先輩方に言われてきた「品質の佐藤」という言葉が胸に残っていると中邑さんは語ります。

現場の若手社員に対しても「品質の佐藤」の言葉に恥じない仕事をしようと伝え、胸を張ってそれを言える現場づくりを意識しながら日々仕事に取り組んでいます。要求品質には応えながら、設計図の中でさらに良い品質になる提案があれば提案し変更する。付加価値の高い建物を提供することがお客様の満足になり、最終的には会社の利益につながっていく。だからこそ、「設計図どおりやるだけが、我々の仕事ではない」と語る中邑さん。真摯に仕事と向き合うその姿勢は、かつて大工だった父の職人としての姿に重なるものでした。

大工だった父の姿と重なる、仕事へのこだわり。
小さい頃から変わらない、つくる楽しさ。

「10年前に亡くなった父親が大工をやっていたこともあり、私もこの職種に就きました。」と語る中邑さん。職人気質で納得のいく仕事をするためなら、大手メーカーの仕事であってもあえて請けないこともあったほど自分の仕事を貫く父の姿は、今、現場の責任者として働く中邑さんにも大きな影響を与えています。納得いかないことで責任を取りたくない。だからこそ、自分の想いをしっかりと伝え、納得いく仕事で責任を取りたい。職人としてのものづくりの心は父から子へと受け継がれています。

建設業界は昔に比べ魅力を感じている若者が減っているのかもしれません。働き方改革も進んではいますが、他の業界に比べれば多少拘束時間が長いこともあります。しかし、時短・時短ではなく、建設業は働きがいや、やりがいを感じることのできる魅力的な職業で、とても達成感のある仕事です。

「子どもの頃、積み木をやったことがあると思います。今回の中庭の石や木を積む作業は積み木を大きくしたようなことで、つくることの楽しさは今の仕事の楽しさにも通じています。」と語る中邑さん。困難であればあるほど、完成した時の達成感や喜びは大きい。それは、変わることのないものづくりの楽しさと言えます。

ホテル建設は、人々の思い出の舞台になることはもちろん、そこで働く従業員の方々の生活の基盤になり、周辺にお住いの方にとっては、尾張町の象徴的な建物になる。だからこそ、出来上がるまでの苦労を知ってもらうより、多くの人の笑顔で溢れる建物にしていきたい。中邑さんの想いが、伝統ある金沢の新たな街の賑わいへとつながっていきます。

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